この記事は、私が『ファイアーエムブレム 紋章の謎』の初見プレイ時のストーリーに関する感想をまとめたものです。
『紋章の謎』のストーリーが想像を遥かに超えて面白かったので、心を動かされたポイントを紹介していきます。
私がゲームプレイ時にストーリーに関する情報をメモした記事は「紋章の謎タグ一覧」にまとめています。また、X(旧Twitter)上でも「#ぷあーと紋章」というハッシュタグで進捗や感想を投稿していたので、興味のある方はどうぞ。
注意:この記事では、物語の核心に触れる重大なネタバレを含みます。未プレイの方はご注意ください。
- クリア済みのFEシリーズ
- 見覚えのある盾、オープニングで語られる大陸の伝承に高まる期待
- 第1部の積み重ねが生んだ、第2部の深み
- 次々と現れる謎と衝撃──加速する第2部の展開
- 見事すぎるタイトル回収──隠された「紋章の謎」
- ガトーとチェイニー──謎に包まれた二人の正体
- 紐解かれる歴史──崩れ去る1部の善悪の構図
- 終わりに
クリア済みのFEシリーズ
前提として、私が『紋章の謎』プレイ時にクリア済みだったFEシリーズは以下です。- 聖戦の系譜
- 覚醒
- 風花雪月(+無双風花雪月)
- エンゲージ
見覚えのある盾、オープニングで語られる大陸の伝承に高まる期待
ゲームを起動すると、まず目に飛び込んできたのは――FE覚醒で見覚えのある、あの盾。
覚醒でも重要な意味を持ったこの盾が、紋章の謎の世界ではどんな役割を果たすのか。クロムの祖先、元祖ロードたるマルスがどんな活躍を見せてくれるのか。期待は高まるばかりでした。
続いて始まったのは、アカネイア大陸に伝わる古代の物語の紹介。
聖戦の系譜のオープニングと同じように、壁画風のイラストと、古語調のナレーションで語られる伝承が印象的でした。表現が少し難解で、誰が何をしたのか一読では把握しきれない部分もありましたが、それでも「かつて竜たちが大陸を荒らし、人類が絶滅寸前に追い込まれたこと」「神の化身が盾の力で竜を封じ、人々を救ったこと」という大まかな筋は理解できました。
聖戦の系譜でも、冒頭で語られた伝承に隠された真実が後に明かされたことを思い出し、紋章の謎でも同様の仕掛けがあるのではないかと期待が膨らみました。
とはいえ、当時ファミコンで発売された『暗黒竜と光の剣』にそこまで重厚な物語を求めるのは酷な話。そこから派生した紋章の謎についても、正直あまりストーリーには期待していなかったのです。
しかし、このときの私はまだ知らなかった――紋章の謎が、そんな予想を大きく裏切る作品だったことを。
第1部の積み重ねが生んだ、第2部の深み
まず真っ先に伝えたいのは、第1部を長編として丁寧に用意してくれたことへの感謝です。
開発当時のコメントによると、もともと第2部だけを想定して制作を始めたものの、ストーリーを補強するために第1部が追加され、最終的に20マップの大ボリュームになったのだとか。
この第1部があったからこそ、第2部の物語は圧倒的な厚みと説得力を持つことになりました。
第1部で登場した多くのキャラクターたちが、第2部では立場を変えて再登場します。かつての仲間が敵となって現れたり、逆に予想外の味方となったり。さらに、アカネイア大陸に秘められた歴史やキャラクターたちの過去も明かされていきます。
1部で共に戦った仲間たちが再び現れた時の興奮は言葉に尽くせません。彼らに対する理解があったからこそ、彼らの選択や行動を深く考察する楽しみも生まれました。
第2部のストーリーは、第1部がなければ絶対に成立しなかった――そう断言できるほど、第1部はこの作品の土台として、なくてはならない存在だったのです。
次々と現れる謎と衝撃──加速する第2部の展開
第1部は勧善懲悪のシンプルな構図でした。ドルーア帝国という「悪」に、アリティア同盟軍という「正義」が立ち向かう。奥行きは薄いものの、王道の物語として楽しめました。
しかし第2部では、物語が一気に濃密になります。
冒頭から、ロレンス率いるグルニアの反乱が勃発。なぜ彼らは反旗を翻したのか? マルスの視点で本当に鎮圧すべき相手なのか? 疑問が次々に湧き上がり、否応なしに物語へ引き込まれました。
私は1部でロレンスを仲間にしていなかったため、彼についての情報はわずかしか持っていませんでした。それでも、知っている顔が再登場するだけで自然と興味が湧き、オグマが登場した時には興奮を抑えきれませんでした。ロレンス、オグマと手を組み、ラングを打倒できたらどれほど良かったか、と強く思いました。
ハーディンの豹変、ニーナの行方、ユベロやユミナ、オグマたちの運命、さらにはミネルバ誘拐の謎、シスターはどこへ、彼女らを連れ去った人物とは誰なのか──各章で生まれる疑問が、物語の推進力となり、私は次の展開を知りたくてたまらなくなりました。
アリティア城落城から氷竜神殿で「紋章の謎」が明かされるまで、息をつく暇もない展開が続きます。1部で蒔かれていた伏線が2部で見事に回収される様子は本当に見事で、私は完全に物語に没頭していました。
見事すぎるタイトル回収──隠された「紋章の謎」
タイトルにもなっている「紋章の謎」は、物語の核に直結するテーマでした。
1部5章でニーナ王女からマルスに託された「ファイアーエムブレム」。
「王家の代理として世界を救う者に与えられる覇者の証」と聞き、私は単なる勲章のようなものだと軽く考えていました。
(まさか、あんな立派な盾を持ち歩いていたなんて誰も思わないでしょう!)
しかもその時点での効果は「宝箱を開ける」という地味なもの。
「これ、ジュリアン解雇じゃん」と冗談を言いながら、特に気に留めていませんでした。
ところが、第1部終盤、軍師モロドフから語られる「封印の盾」の伝承。
「神が人々を守るために残した盾」「メディウスを抑える力」などの情報に触れ、私は自然にこう思い込みます。
──ファイアーエムブレムと封印の盾は別物で、この大陸のどこかに眠っているその「封印の盾」の力がメディウスを抑え込んでくれているんだ、と。
しかし、この思い込みこそが、モロドフの仕掛けたミスリードでした。
第2部2章、リンダからファイアーエムブレムを返却されたマルスが、その正体を語ったとき、私は衝撃を受けます。
え!? ファイアーエムブレムって盾だったの!?
混乱しながらも、「封印の盾」とはまた別の特別な盾が存在するのだと受け止めました。「紋章の盾」と「封印の盾」は別物なのだと。
ところが、第2部14章、氷竜神殿でついに真実が明かされます。
そういうことか!!
ゲーム起動直後に示された台座こそファイアーエムブレムだったのです。
これまで点在していた情報が一気に線でつながり、私はマルスと同じように世界の真実を知る衝撃を味わいました。
1部で明かされなかったエムブレムの特徴、まるでゲーム進行の都合で追加されたかのようなエムブレムのアイテム効果、そこに秘められていた伏線、王国の都合のいいように塗り替えられたアカネイアの歴史、歴史に隠された真実──。
すべてがここで回収される仕掛けに、ただただ感嘆しました。
モロドフのミスリードを誘う発言があったからこそ、私はここまで「封印の盾」「紋章の盾」が別物だと疑わなかったのです。だって普通に考えたら、特別な盾が2つも登場するなんて不思議なので疑いますよね。
モロドフの見事な策に、心から拍手を送りたいです。
ガトーとチェイニー──謎に包まれた二人の正体
1部には、正体不明の人物が二人登場します。ガトーとチェイニーです。
この二人は物語を引き立てるための最重要人物です。
最初にガトーの存在が語られるのは、第1部8章ディール要塞の老人の口からでした。
「偉大なる三人の司祭のひとり」
「ガーネフはガトーには倒せない」
──そんな不可解な情報だけが伝えられ、私は彼への興味をかき立てられました。
第1部12章カダインで、ガトーから初めて話しかけられます。彼が実在し、しかもガーネフやミロアの師匠だったことが明らかになります。その驚きとワクワク感は、今でもよく覚えています。 ガトーは「スターライト」の必要性を説き、オーブ収集という新たな使命を課してきます。
一方、1部13章では変身能力を持つ少年チェイニーが仲間に加わります。
彼の只者ではない雰囲気は強烈でしたが、素性については何も語られず──
ただその「謎」だけが、心に引っかかったままでした。
謎は深まり、1部は幕を閉じる
物語が進み、1部20章ドルーア城。
ガトーは、こんな意味深な言葉を口にします。
「はるか昔、おろかなる人間たちに……」
「人間もまだ捨てたものではない……」
この発言を聞いたとき、私は思いました。
──まるで自分が人間ではないかのような言い方だ。
しかし、私はガトーはあくまで「人間の賢者」だと、その考えをすぐに打ち消します。
年老いた今だからこそ、若き日々を「はるか昔」と呼んだのだろう。
あるいは、竜族の力を手にした長寿の人間なのかもしれない──。
ガトーが竜化する姿など、まったく想像できなかったのです。
こうして、ガトーもチェイニーも正体がわからないまま、第1部は幕を閉じました。
そして第2部──真実への扉が開く
第2部9章。ガトーが「何百年も昔から生きている」という証言が登場します。
ここでまた、疑念がよぎりました。
──もしかして、ガトーは竜族なのか?
しかしやはり、私の中の竜族像とガトーの姿は結びつかず、「いや、違うだろう」と自分に言い聞かせました。
それでも、心のどこかで「ガトーとは何者なのか」「チェイニーとは何者なのか」、その答えを求めながら、物語を進め続けます。
そして──第2部12章フレイムバレル。ついに、チェイニーから衝撃の告白が飛び出しました。
声が出るほどの驚き──竜族の真実
ええええええええええ!!!!
うそでしょ!?
ガトーが……竜族!?
チェイニーも──!?
私は思わず声を上げました。
ガトーについては、一瞬だけ竜族を疑ったことがあったとはいえ、「まさか」と打ち消していたし、チェイニーに至っては、竜族だなんて微塵も思っていませんでした。
今振り返れば、チェイニーの「変身能力」は、聖戦の系譜における古代竜族の伝説──
さまざまな姿に変わり人間の前に現れたという伝説を彷彿とさせます。
けれど、まさかそこまで読み取ることはできなかった。
ガトーにしても、いくつかのヒントは散りばめられていました。
それでも、その出し方が絶妙だったため、多くのプレイヤーが「正体」を知らされるその瞬間まで気づかなかったのではないでしょうか。
ちなみに、私がX(旧Twitter)で行ったアンケートでも、「ガトーの正体を明かされて初めて気づいた」という人が圧倒的多数でした。
彼ら二人は、竜石を捨てたために二度と竜化できない身体になっています。
そのため、たとえ『FEH』など別作品で彼らに触れていても、竜族らしさを感じることがなく、純粋な驚きが守られていたのです。
紐解かれる歴史──崩れ去る1部の善悪の構図
ガトーとチェイニーの正体に迫るにつれ、彼らの過去、そして彼らが抱く想いが徐々に明らかになっていきます。
竜族と人間の歴史
古くからアカネイア大陸に住み着いていた竜族は、ある日突然種の終わりを迎え、退化が始まりました。子供が生まれなくなり、やがて理性を失い多くの竜族が野生化しました。退化から逃れる方法はたった1つ、竜石に竜の本性を封じて、人間として生きることでした。
しかし、竜としてのプライドを捨てられなかった数千もの竜族は、野生化し、大陸に住んでいた人間を襲いました。
竜族の王だったナーガは、人間を守るために戦いました。ナーガは戦いに勝利し、眠った地竜族を地の底に封印し、封印の力を維持できるよう封印の盾を作りました。しかし、この戦いで力を使いすぎたナーガは、人間が身を守るための武器と、生まれたばかりの娘であるチキを残し、死亡します。
それから、ガトーとチェイニーはナーガの教えを守り、人間を助けました。
しかし、人間は、目先の利益のために封印の盾を壊し、地竜族の封印を解く引き金を引いてしまいます。さらにナーガが人間のために残した武器で戦争を引き起こし、やがて大人しく暮らす竜族にまで攻撃するようになりました。
それに怒った地竜族で唯一ナーガに従いマムクートとなったメディウスがドルーア帝国を築き、ドルーアとアカネイアの戦争に発展します。それが解放戦争でした。
解放戦争を機にガトーは人間が身を守れるよう魔道書を与え、魔道を教えました。やはりそれは戦争の道具として売買されるようになります。ずっとナーガの教えを守り続けてきたガトーはついに人間に愛想を尽かし、人間との関わりを断ちました。
マムクートと人間との対立──その原因は、すべて人間の愚かさにありました。
第1部では敵だったドルーア帝国も、この歴史を知ることで、単なる「悪」とは言い切れなくなります。
単なる過去の記録ではなく、ガトーやチェイニーが「実際に見て、感じてきたもの」がマルスに語られる。
それはきっと、マルスの心にも大きな影響を与えたはずです。
思えば、『聖戦の系譜』もまた、善悪の単純な二元論では語れないストーリーでした。
『聖戦の系譜』では、序盤からロプト帝国出身者の迫害が描かれ、敵側にも苦しみがあることが自然と伝わってきました。
一方『紋章の謎』では、敵側の心情がそこまで深く描かれるわけではありません。
だからこそ、メディウスが「なぜあそこまで人間に怒りを燃やしたのか」を理解するためには、プレイヤー自身の想像力が求められます。
それを思い巡らせれば巡らせるほど、メディウスへの同情と、人間──特にアカネイア王族への憤りが胸に湧き上がってきます。
マケドニア王国がアカネイアに虐げられてきた歴史を見てきたミシェイルも、同じような憤りを抱えていたのかもしれませんね。
では、なぜナーガはそんな人間たちを、命を懸けてまで守ろうとしたのでしょうか。
その理由は、ゲーム中では明言されていません。
──「人間の活力こそが、次の時代に必要だった。だからこそ、ナーガは人間を選んだのだ」と。
そして、『紋章の謎』から二千年後の世界である『覚醒』では、竜族と人間の間に子供が生まれています。
(FEH 英雄紹介ンンのページより)
竜族同士では子がなせず、滅びを運命づけられていた彼らは、人と結ばれることで、新たな未来をつかんだ。そう解釈することもできます。
ガトーやチェイニーという、今も生き続ける竜族の視点から語られる過去──
これにより竜族の苦悩、人間の愚かさ、そしてそれでもなお未来へ希望を託したナーガの想いが、よりリアルにプレイヤーに届きました。
こうして、1部で築かれた「ドルーア=悪、アカネイア=正義」という単純な構図は崩れ、物語は、より深く、より重みのあるものへと昇華していったのです。
終わりに
私自身、まだファイアーエムブレムシリーズをすべて遊び尽くしたわけではありませんが、『紋章の謎』ほど物語に深く惹き込まれた作品は、これまでにそう多くはありません。しかも、それがシリーズの原点とも言える作品であることに、驚きと感動を覚えました。
アカネイア大陸の歴史の真実がガトーたちの口から語られるとき、私はただのプレイヤーではなく、まるで物語を傍らで見届ける証人になったような感覚を覚えました。
渦巻く国家間の思惑、「封印の盾」を通して描かれるアカネイア王国の光と影、偽りに塗り替えられた歴史、人間と竜族の対立と共存――それらが折り重なって一つの真実へと収束していく構成は、今見てもなお圧倒的な美しさと完成度を誇っています。
『紋章の謎』は、マルスの戦いを描くだけの物語ではありません。これはアカネイアの歴史の深層に迫る「探求の物語」でもあり、人間の歴史に秘められた罪と向き合い、未来の選択を託される旅でもあります。その旅に、私たちプレイヤーもまた立ち会っていたのです。
『紋章の謎』は、ファイアーエムブレムというシリーズの原点でありながら、その核心を鮮やかに体現する作品だと、初めてのプレイでありながら深く実感しました。
このゲームに出会えたことを、心から幸せに思います。